フィズヨビ代表の田原真人です。
 
フィズヨビのことを理解していただくためには、田原の活動の歩みを語っていくのがよさそうです。

というのも、私がやっている活動や仕事の多くは、「自分が壁を乗り越えた体験を共有し、次に壁を乗り越える人の助けとする」というサイクルを回しながら生まれてきたものだからです。

それは、下図で表されるようなサイクルです。
 
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自分が試行錯誤して壁を乗り越えたばかりのときは、どのようにして壁を乗り越えたのかを言語化できていません。そこで、誰かの支援をしながら、同時に自分の体験を振り返って概念化していきます。

概念化が進むと壁を乗り越えるための道筋を体系的に伝えられるようになり、支援を仕事にできるようになっていきます。

仕事をしていくと、仕事の流れが次第に体系化、効率化してきます。そうなると仕組みを作って自由な時間を創出できるようになります。

そこで、自由な時間を使って、新しい壁を突破するためのチャレンジをしていきます。

 
このサイクルをくるくる回し、らせんを描きながら、多くのことを学び、多くの仕事ができるようになってきました。

具体的に、私がどのようにして壁を乗り越え、それをフィズヨビに還元してきたのかを、時系列に沿って説明したいと思います。

高校生時代~物理学習の壁

 
高校時代の私は、自分がやりたいことと、自分の成績とが一致しないことに悩んでいました。

当時の私は、科学者に憧れがあり、物理の道に進みたいと考えていました。

でも、成績がよいのは文系科目で、理系科目の成績が悪かったのです。
 
そのギャップは極端で、国語で学年1位を取ったり、全国模試で成績優秀者のリストに載ったりする一方で、理系科目は赤点すれすれだったのです。

特に物理は、どうやって勉強したらよいのかが分からず、困っていました。
 
意味が分からないままに公式を暗記しなくてはならないことに苦痛を覚え、だからと言って別の学び方を知らなかったので、ほとんど理解できないまま高校を卒業しました。
 
物理を理解できないことにより、科学者になりたいという自分の未来が閉ざされているような感覚がありました。

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予備校生時代~微積分を使って学ぶ物理との出会い

 
私に道を開いてくれたのが予備校でした。
 
駿台予備校で出会った山本義隆さん、故・坂間勇さんが教えてくれた物理の授業は、当時の私には難しい内容でしたが、そこには、明確で美しいロジックがありました。

そのため、時間をかけて取り組めば理解することができ、そして、理解するたびごとに大きな喜びがありました。

微積分を使うことで、物理が見事に体系化されていくことを知り、感動しました。
 
物理学の世界にどんどん魅了されていき、それに伴い、成績も急上昇していきました。

予備校は、本来、受験生を大学に合格させることを目的としている場所です。

にもかかわらず、当時の予備校講師たちが、大学受験対策のテクニックを教えるのではなく、学問の魅力を伝えていこうとしていることが伝わってきて、その在り方にも共感しました。

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大学生時代~自ら学ぶ楽しさを知る

 
一浪の末、早稲田大学理工学部応用物理学科に進学し、期待に胸を躍らせて授業に臨みました。
 
しかし、大教室で行われる授業は苦痛で、次第に出席しなくなりました。授業でやっていることは、参考文献に書いてあることとほとんど同じだったので、本を読んでマイペースで勉強したほうがよいと考えたのです。
 
そのうちに、同じことを感じている友人が多いことに気づき、ゲリラ自主ゼミ団を組織することにしました。
 
授業で使っていない教室を使い、ゲリラ的に自主ゼミをやりながら、自分たちで学んでいくのです。
 
分担して担当を決め、教える側と、教わる側の役割を交代しながら学び合っていくうちに、自分が教える側になったときのほうがよく学べることに気づきました。
 
それからは、重要な科目を進んで担当するようになりました。

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大学院生時代~自己組織化との出会い

 
大学3年生のときに大学院進学と就職とで悩みました。
 
物理の研究者になることが子どものころからの夢であったのですが、「物理学は人類を幸せにしてきたのだろうか?」という疑問が頭に浮かび、前に進めなくなったのです。
 
物理学が、熱エネルギー、電気エネルギー、核エネルギーを開放していくに従い、生活は便利になっていきましたが、その一方で、科学技術は軍事に転用され、軍事力を背景とした先進国の支配も進みました。

科学は、社会から独立しているものではなく、社会の一部であるという事実に直面したときに、子どものころのような無垢な気持ちで科学を捉えることができなくなってきたのです。科学を批判的に捉え、ブレーキをかける役割を担う科学ジャーナリストを目指すことも真剣に考えました。
 
そんなときに出会ったのが、カオス理論であり、自己組織化の原理でした。
 
これらは、科学の枠組を問い直し、パラダイムシフトを起こすきっかけになる可能性を持っていました。

そこで、「生きている状態」を物理学の枠組で研究することに決めました。
 
早稲田大学の修士課程、博士課程に進み、生き物が相互のコミュニケーションを通して構造をボトムアップ式に自己組織化していくメカニズムを研究しました。

研究テーマとして選んだ細胞性粘菌は、ライフサイクルの中で単細胞アメーバがコミュニケーションを取って集まり、合体して多細胞体を作ります。
 
自然界では、このようにボトムアップで構造が自己組織化するのに、人間社会ではトップダウン式にものごとが決まっていくことに、次第に矛盾を感じるようになりました。

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予備校講師時代~壁を乗り越えた体験を仕事にする

 
博士課程3年生のとき、様々な事情で研究者への道を断念することになり、博士課程を中退しました。

生きていくために仕事に就かなくてはならなくなったときに、頭に思い浮かんだのは予備校でした。
 
予備校なら、学校よりも制約が少ない環境で、学問の魅力を伝えられると思ったのです。

高校時代に理解できなかった物理を、予備校に通って理解できたという自分自身の体験が大きく影響しました。

かつて、未来が閉ざされていると感じていた自分と同じような想いをしている高校生に、道を作ってあげたいと思いました。
 
予備校講師を始めてみると、

「微積分を使った物理は難しい」
「微積分を使って学ぶのは、ハイレベルの生徒だけで十分だ」
 
という意見が多くを占めていました。

本来は、理解することが学びの目的で、理解度を測るためにテストがあるのですが、テストの点数による競争が過熱していくにつれて、「テストで点数を取る」ことが目的になるという本末転倒の状況が生まれてきたのです。

手っ取り早く点数が取れる方法が好まれ、多くの「受験必勝法」の情報が溢れる一方で、難しいものや、時間がかかるものは敬遠される傾向がありました。
 
極端なことを言えば、「理解できなくても、点数が取れればいい」という雰囲気を感じました。
 
その状況の中、「物理を真正面から理解していこう」という私の呼びかけは、受験生から反発をくらい、授業に出なくなった生徒もたくさんいました。

でも、その一方で、「物理を理解したい」と心から願っている受験生も確実に存在していました。また、受験のプレッシャーから近道を探している生徒の心の中にも、「理解したい」という気持ちが潜んでいることに気づきました。
 
受験という限られた期間の中で、ちゃんと物理を理解した上で問題を解けるようになり、受験にも合格できるということが分かれば、近道を探していた受験生も、安心して理解するための努力をできるようになるのだと思いました。

そこで、微積分を使った教え方を自分なりに工夫し、一部のハイレベルの生徒だけでなく、誰でも理解できるように噛み砕いていきました。
 
背景の物語や、現象のイメージを伝えるためにたとえ話をたくさん作りました。
 
その結果、受講者の成績が上がりはじめ、受講者が安心して理解するための努力をすることができるようになりました。

このようにして、たとえ話と微積分で高校物理を教える「田原の物理」ができたのです。

 

フィズヨビ~仕事を仕組み化する

 
 
予備校講師になって5年が経った頃、「田原の物理」をもっと広めていきたいと考えました。

微積分を使って高校物理を学ぶのは、一部のハイレベルの生徒じゃないと無理だという風潮を変えたいと思ったのです。

「田原の物理」によって、普通の生徒であっても、微積分を使って物理を深く理解することができ、その結果、入試の問題を解けるようになるということを実現できていたからです。

そこで、思いついたのがインターネットで授業を配信するという方法でした。

2005年にフィズヨビをスタートしました。
 
はじめは、授業内容を実況中継風にテキストに書き出してPDFファイルで配信しました。途中からは、動画を作る方法を教えてもらい、授業をすべて動画にしていきました。
 
フィズヨビを始めたことで、予備校の外側の人たちと繋がりました。
 
日本中に、物理を勉強したいと願っている社会人がたくさんいることを知り、驚きました。
 
物理ができないことで未来が閉ざされている人の扉を開けたいと思い、要望に応える形で、学士編入試験対策や、弁理士試験対策の講座を作っていきました。
 
高校時代に理解できなかった物理を理解してみたいという純粋な想いで学んでいる人もたくさんいることが分かりました。

動画を使ってマイペースで学ぶことの価値に気づきました。分かっているところは2倍速で聴き飛ばし、分からないところは一時停止して繰り返し再生するという学び方は、動画から入ってくる情報のスピードと、理解のスピードとを自分で調整してシンクロさせることができるので、長時間集中力を維持することができるのです。これは、今までになかった画期的な方法だということに気づきました。

フィズヨビを始めたことで、予備校の授業を減らすことができるようになり、自由な時間を作れるようになりました。
 
 

東日本大震災~混乱の末に生まれた新たな芽

 
2011年3月11日に、宮城県で東日本大震災を体験しました。これは、人生の大きな転機となりました。
 
原子力発電所の事故、政府の対応、メディアの報道などを通して、人の命よりも、別のものが優先されていると感じました。
 
本来あるべき優先順位がひっくり返っているのに、それが、まかり通っている状況に直面して混乱しました。
 
「テストのために学ぶ」という本末転倒と同じような状況が、いたるところに存在していることに苦しくなりました。
 
同時に、物理学が解放した核エネルギーが、自分が生まれ育ち、生活の場であった茨城、福島、宮城の自然を取り返しのつかない形で破壊してしまったことから、物理講師を続けていくことが苦しくなりました。
 
この状況は、どこから生じているのだろうか?
 
と考えたとき、「誰かが決めたゲームに知らないうちに参加し、そこで競争しているうちに本末転倒が起こる」ということなのではないかと思いました。

大学受験というゲーム
就職活動というゲーム
マネーゲーム

というゲームに勝ち抜くための必勝法を学んでいくうちに、私たちは、生命らしさからどんどん遠ざかっているように感じたのです。
 
このようなゲームでは、アメとムチによって外側から強烈な動機づけがされます。

一流大学、上場企業、たくさんのお金・・というものがアメ
就職できない怖れ、お金がないと生きていけない怖れがムチ
 
社会全体がアメとムチで一方向的に誘導され、一元的な価値観によって序列化されることで、個人が分断されて協力できなくなっていくのではないかと思いました。

このように外から誘導されたヒエラルキー型の組織は、私が学んできた生命が自己組織化する組織とは全く異なるものです。
 
生命は、自分の<いのち>を自ら場に投じていくことで、場にメタレベルの<いのち>の循環構造を生み出していきます。
 
そして、場に生まれたメタレベルの<いのち>によって、個々の<いのち>が活性化していくのです。
 
個と場の間の与贈循環こそが、生命の自己組織化であり、自然の摂理だと私は思います。
 
もっと自然の摂理に近い形で、学んだり、働いたりすることはできないのか。
 
そんなことを考えていたときに、反転授業と出会いました。

反転授業~管理の矢印を反転していく

反転授業は、2012年にシカゴの高校の化学教師、ジョナサン・バーグマンとアーロン・サムズの両氏が始めたものです。

反転授業(Flipped Classroom)という名前は、旧来の授業が、授業で知識の伝達を行い、自宅で問題演習などの宿題を行うという順番だったのを、自宅で動画を見て知識を獲得し、授業中に演習や学び合いなど知識の定着に必要な活動をするというように授業と自宅学習の順番を反転したところから来ています。

彼らは、クラブ活動などで欠席する生徒へのサポートのために動画講義を作り始めました。そのうちに、その動画を視聴することを宿題にすることで、授業時間に、今までよりも多くのコミュニケーションを取れるようになることに気づきました。
 
それで、動画と自動採点できるテストシステムとを使い、生徒がマイペースで学べる環境を作り、空いた時間をコミュニケーションの改善に使いました。

教師から生徒への一方的な知識の伝達ではなく、相互にコミュニケーションを取ることで、授業の主役を教師から生徒へ移行する学びのパラダイムシフトを起こすことができることに彼らは気づいたのです。

反転授業では、教師の役割は、「教えること」から、生徒が主体的に学ぶ環境を整え、生徒の主体的な学びを支援する「ガイド役」に変化します。

私は、反転授業のことを知ったとき、「本末転倒」している状況が、反転することによって、本来あるべき状態に戻り、自然の摂理に沿った学びができるようになるのではないかと思いました。
 
そこで、反転授業における教師の役割について学ぶため、「反転授業の研究」というグループを立ち上げました。

2015年には、ジョナサン・バーグマン氏にインタビューし、彼が「教室におけるコミュニケーションを改善したい」と語るのを直接聞くことができました。
 
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反転授業を世界へ広めるジョナサン・バーグマンさんインタビュー

オンライン反転授業~学び合いのほうがもっと学べるという気づき

 
反転授業についての理解が深まってきたので、Web会議室を使った反転授業を定期的に実施するようになりました。
 
授業で扱う内容は、あらかじめ動画で配信しておき、授業では、類題演習を行いました。
 
私が教えるのではなく、解き方を参加者に問いかけ、参加者からの回答を元に授業を進めていく形式を取りました。
 
その中で、とても印象的な出来事がありました。
 
参加者からの質問に対して、私が回答するのではなく、場に投げかけて参加者に回答してもらうようにしたときに、チャットボックスにたくさんの回答が溢れ、その中にとても分かりやすい説明がありました。
 
授業終了後のアンケートを読むと、

「私のした質問に対して、みんなが考えてくれたことに感動した。みんなで作る授業は楽しい」
 
と書いてありました。他の人のアンケートでも、質問に対するやり取りに触れているものがたくさんありました。
 
質問に対して教師が答えるよりも、参加者同士で話し合ったほうが学びに繋がるのだということを、体験を通して納得することができた貴重な経験でした。
 

ワールドカフェ~集合知へアクセスする対話手法

 
反転授業における「ガイド役」とは、どのようなものなのだろうか?
 
生徒同士の話し合いが、どのような仕組みで学びに繋がるのだろうか?

そのような問いを心に抱いていたとき、『ワールドカフェをやろう』という本と出合いました。

ワールドカフェという対話を行うと、それぞれが持つ知恵や考えが場に溢れてきて繋がり、集合知が生まれるのだと書いてありました。一人ではできないことが、集まって協力することによって可能になるということこそが、集まって学ぶ意味なのだということが分かり、光が見えました。

ワールドカフェについて学ぶために著者の香取一昭さんに連絡をとり、アメリカでワールドカフェのオンライン講座を開催しているエイミー・レンゾーさんを紹介してもらいました。
 
エイミーさんのもとで、ワールドカフェホスティングのやり方を学んだときに、事例として出てきたのが、量子力学を作った物理学者の一人であるニールス・ボーアを中心としたコペンハーゲン学派でした。

彼らが成功した理由は、自由に話し合うことができるコミュニティ形成をしたことです。何でも気楽に話し合うことで、コミュニティに集合知が発生し、新しい科学を立ち上げることができたのです。

科学の世界でも、対話が重要な役割を果たしてきたことを知り、未来を創っていく科学教育の方向性が見えてきました。
 
エイミーさんは、オンラインワールドカフェの世界の第一人者でもあり、オンラインでの対話の可能性について誰よりも考えてきた人です。2015年にスカイプでインタビューさせていただき、その考えに触れることができました。

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エイミー・レンゾーさんインタビュー

オンラインコミュニティでの学び~新たな学びの可能性の発見

 
 
エイミーさんのオンライン講座を受講したことで、どのようにすれば、対話型のオンライン講座を運営できるのかが分かりました。
 
それを土台にして、「反転授業の研究」で、オンライン講座を企画するようになりました。
 
運営者は自己組織化が起こるための環境を整え、参加者は、学びながら自分の経験を場に与えていくと、多くの知恵が場に溢れ、助け合いの循環が起こりはじめます。
 
それは、安心感と幸福感に溢れた学びであり、そこで起こる全てのことが学びにつながるようなものです。そのような場創りを繰り返すうちに、これを広めていけばよいのだという確信が生まれました。
 
オンラインコミュニティでの学びは、多くの人に関心を持ってもらえるようになり、「第3回 アクティブラーニングフォーラム」で講演しました。

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動画の視聴はこちら
 

フィズゼミ~壁を超えた経験を元に支援する

2015年の夏、「反転授業の研究」で創り出したオンラインコミュニティでの学びを、フィズヨビで実現するために、オンラインの学び合いの夏期講習を実施しました。

そこに参加してくれた人たちは、自分たちで助け合って学んでいけることに気づき、夏期講習の後、オンラインの自主ゼミ「フィズゼミ」をスタートしました。

冬期講習の参加者も合流し、フィズゼミの仲間は、オンラインでも助け合い、励まし合って学ぶことができるのだということを示してくれました。 

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共創学習サイクル~オンラインの学びを仕組み化

 
2015年の体験を踏まえて、以下の3つの柱をフィズヨビに立て、それを順に回していくことにより、らせんを描きながら、学びを深めていけるはずだという確信が生まれました。

(1)動画を使ったマイペースの学び
(2)オンライン反転授業
(3)コミュニティーラーニング
 
コルブの経験学習サイクルの回し方や、協力して学ぶ方法を伝えながら、徐々に手を放していきます。
 
最終的なゴールは、世界中に溢れるコンテンツを使って学ぶことができ、自分たちで仲間を集って学び場を自ら創出できるようになることです。
 
そこへ至るための支援をフィズヨビでやっていきたいと思います。

私は、これを「フィズヨビ共創学習スパイラル」と名付けました。

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フィズヨビで学んだ人たちが、地球のあちこち、または、オンラインに同じような学び場を創っていき、自分たちで協力して活動を生み出していってくれることで、少しずつ、社会の在り方が、自然の摂理に沿った形に変わっていくことが、私の願いです。

フィズヨビは、自ら世界を創りたい人たちをサポートするために「学び方の研究所」として、世界の最先端の学びを取り入れ、新しいことにチャレンジし、進化し続けていきます。